2010年4月29日木曜日

ロゴ制作のプロセス

みなさんには、趣味を楽しむために欲しいスキルってありますか?

私が欲しいと思うスキルは「楽器の演奏」です。
技術さえあれば自分の好きな曲をコピーして楽しんだり、
オリジナルの曲を作ったりできるからです。
ミュージシャンがブログなどで「今日は暇だから好きな○○の曲を弾いて遊んでました」などと書いてあるのを読むと「楽しいだろうなー」と羨ましく思います。

さて、そういう観点から見たグラフィックデザイナーの楽しみとは、何でしょう?
それは「自分の身の回りのものを自分で作れる」ことに尽きます。
例えば、CDラベルやファイルの背ラベル、レターヘッド、プライベート用名刺、
結婚式やパーティーの招待状、年賀状、同人誌などなど・・・。平面デザインに関する限り、欲しいモノがなければ自分で作ることができるのは大きな楽しみです。

先日、旧友I君から「自分だけのオリジナルTシャツをつくりたいから、ロゴを作って欲しい」というメールが突然来ました。
メールの内容を詳しく見てみると、「JIMINTOとローマ字で、デザインは宇宙とか未来とかを感じさせるものにしたい」とのこと。
なぜ「じみんとう」なのかは意味不明ですが、
それはたぶんI君なりのユーモアなのでしょう。
ロゴを作るのは本当はけっこう手間が掛かるのですが、おもしろそうなので「ミュージシャンが遊びで楽器を弾く」くくらいの感覚で、やってみました。

本ブログでは、ついでにこのロゴを使って「ロゴ制作のプロセス」を紹介してみたいと思います。

まずは、テーマを吟味します。
・宇宙
・未来

思いつくままに、いろいろとスケッチします。
いろいろ描いてみた結果、「宇宙」「未来」ということで、わりとベタな感じで
立体の斜字体にしようと思いました。


ここではだいたいのイメージさえつかんでおけばよいので、
かなりラフなスケッチです。

イメージができたら、そのイメージにあった書体があるかどうか、手持ちのフォントを探します。
今回は運良く、すぐに見つかりました。これをベースに加工すれば、イメージ通りのロゴタイプができそうです。




イメージに近づけるよう、文字の間隔を詰めてゆきます。


さらにイメージに近づけるために、本格的に加工します。



ロゴとしてのまとまり感を出すために、最初の「J」と最後の「O」をつなげてみました。

さらに「宇宙っぽさ」を出すために、電波っぽいイメージを追加し、仕上げとして、
3Dツールで、加工します。




これで完成ですが、せっかくなので他のバリエーションと、Tシャツに配置した場合のイメージ図を作ってみました。


以上、ロゴ制作のだいたいの流れを解説しましたが、実際仕事でやる場合は仕事の規模にもよりますが、この10倍くらいの手間を掛けます。コンセプトの立案、スケッチなどの実作業以前の行程でも、かなりの時間が掛かりますし、実作業でも、より美しくなるように造形の精度をあげてゆきます。その後、たくさんのバリエーションを作って、実際に使用した場合のシミュレーションを重ねます。

ですので、今回の解説はあくまで「だいたいの流れ」として
認識していただきたいと思います。

2010年4月24日土曜日

サンマイクロシステムズ社

今回は読者の方から要望のあったロゴを取り上げます。
「サンマイクロシステムズ社」です。


マーク部分は四方向から「sun」と読めるようになっていて、
発想はおもしろく、魅力的です。

「Sun」の文字部分のフォントは、ITC Garamond Book Condensed Italic のようです。
ITCはフォントメーカー名、Garamondはフォント名、Bookはフォントの太さのバリエーション、Condensedは、縦に狭いバリエーションのことです。
Garamondは色々なフォントメーカーから発売されていますが、メーカーによってデザインはけっこう違います。ITC社のGaramondは品質が高く、個人的にかっこいいと思います。
サンマイクロシステムズ社のロゴのかっこよさのかなりの割合を、書体のかっこよさが占めていると思います。

さて、全体的な印象としては発想がおもしろく、かっこいいロゴなのですが、
「Sun」の文字は、そのまま使用せずに、ロゴ用に調整したほうがよかったのではと思います。
というのは、「Sun」の文字同士をかなり詰めているのですが、「u」と「n」が流れとしてつながらなくなっているのです。
下図をご覧下さい。



オレンジ色の部分は、「u」の書き終わり部分と「n」の書き始め部分の延長線です。
つまりこのフォントは、ここまで詰めることを前提として設計されていないのです。
通常、ロゴタイプをデザインする場合、既存のフォントを元に作る場合も多いのですが、
その場合、隣り合う文字との関係性から、デザインの微調整をします。
このロゴタイプの場合、少なくとも文字のつながりに関しては、調整をしていないようです。意図してやったのかもしれませんが、個人的には調整したほうがよいと考えます。


●サンマイクロシステムズ社
造形:★★★
テーマ表現:★★★★
汎用性:★★★

※5点満点

2010年4月18日日曜日

ロゴの何を判断基準としているか

ここまでいくつかのロゴについて解説してきましたが、
ロゴの良し悪しをどこで判断しているか、という疑問を抱く方もいると思います。

本来なら、最初に書いておかなくてはならないことだと思いますが、
あまり深く考えずにスタートしてしまいましたので、
ここで本ブログの基本的な方針を述べておきたいと思います。

ロゴの良し悪しを判断する基準は以下の3つです。

1.造形的な美しさ
2.テーマに対する、適切さ(説得力)
3.汎用性

これらの基準は、一般にロゴデザインにおいて教科書的な判断基準です。
ただし、これらを適切に判断するには、ある程度の美的感覚と経験の両方が必要です。
数値で計測できるようなものではないので、人によって評価が変わる可能性はありますが、
プロであれば「ある程度」は一致します。

上記の基準において「名作」と呼ばれるロゴはこれらすべてを満たしています。
ただし、「3」は想定される使用媒体が限定されていれば、かならずしも満たす必要はありません。
例えば、商品ロゴであれば、商品のパッケージにしか使用されないこともあります。その場合はパッケージデザインのなかで適切であればよいのです。
逆に、「3」が重要視されるのは企業のCIです。企業のロゴ・シンボルマークは、巨大看板から、名刺まで、使用範囲が実に幅広く、そのため細かすぎるデザインや、再現しにくいグラデーションなどは避けられる傾向にあります。企業ロゴがシンプルなものが多いのはそのためです。

上記判断基準において、一番評価の分かれるのは「2」だと思います。
これには、判断するそれぞれの人の「価値観」が入るからです。
つまり理想とする「デザイン観」はプロであってもそれぞれ違うのです。

本ブログは、「総佐衆」が考えるデザイン観に基づいて書かれています。
ですので、もしかしたらデザイン関連の教科書とは違うこともあるかもしれません。
そこも含めて本ブログを楽しんでいただけると幸いです。

2010年4月14日水曜日

mixiとGREE

今回は、日本の二大SNSサービスのロゴを比較してみたいと思います。

mixiとGREEです。









文字部分は、どちらも既存書体でなくオリジナルだと思われます。
両者を比較して特にどちらが優れているというほどの差はないと思います。どちらも「それなり」のレベルではあります。

GREEは、「E」部分に若干違和感を感じるのと、マーク単体での使用に向かない気がします。あと、立方体のマークと、細めのサンセリフ(ゴシック)書体を見ると、どうしても「NeXT」コンピューターのロゴを思い浮かべてしまいます。「NeXT」のロゴは巨匠ポール・ランドデザインの名作ですが・・・。

mixiは、ロゴタイプとしてはよく言えば今風です。最近のロゴの傾向を見ると、軽さや柔らかさを感じさせるものが多いように思われます。mixiはその流れの中にあるロゴです。これは、ごく単純に言ってしまえば80年代的な消費文化への反動と、近年のエコブームの影響
でしょう。
そのため、好かれるのも早く古びるのも「mixi」の方だと思いますが、どうなるでしょう?

2010年4月11日日曜日

ロゴとパッケージ

数年前、メーカーに勤務していた頃、一番多かった仕事が商品パッケージのデザイン制作でした。パッケージデザインにおいて商品ロゴは重要な要素ですが、店頭に並べたときの派手さが求められることが多く、企業CIなどと比べるとロゴとしての完成度は低くなりがちです。

そんななかで、名作として評価されているロゴの一つが、「ポカリスエット」です。



一見、既存の書体を並べただけのシンプルなロゴですが、発売当初から今に至るまでロゴ自体はほとんど変わることなく、現在に至っています。

文字の配置と下部の波のマークのバランスが絶妙です。

パッケージデザインは、完成度の高いロゴさえあれば、他に絵的な要素など必要がないことを証明しています。
「ポカリスエット」はパッケージデザインの最高峰の一つであることは間違いないでしょう。
ちなみに、以前は自販機専用のロゴもあったようです。




これも、完成度は高い名作ですが、見かけなくなってしまったのが残念です。

多少なりともグラフィックデザインの教育を受けたことのある人にとっては、
今回の話題はよく知られていることですが、
本ブログは幅広い人たちに読んで欲しいので、
今後もこのような基本的な情報を積極的に紹介してゆきます。

2010年4月8日木曜日

横浜都市ブランドロゴマーク3案

本日の更新のために、他のネタを用意していたのですが、
こんな記事を見かけたので、今日はこれを取り上げたいと思います。

横浜市がロゴマーク3案、「もう不要」の声も : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 横浜市は7日、横浜の未来イメージを国内外に発信する「都市ブランドロゴマーク」について、3候補の中から市民の投票で決めると発表した。
 市には、ひし形の徽章(きしょう)「ハママーク」をはじめマークやキャラクターが約160種類あり、市議会からは「これ以上いらない」との意見も出ているが、市は11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)などを機に「マークを生かして横浜をPRしたい」としている。投票は8日から始まり、6月中には決める予定。
 ロゴマークの作成は、2008年12月に始まった市民参加型都市ブランド共創プロジェクト「イマジン・ヨコハマ」からスタートした。横浜の未来のイメージについて、市内各地で約30回開かれ、市民約870人が参加したワークショップで意見を聞いた。昨年の開港150周年イベントでも来場者にアンケートした。
 その結果、開放的な雰囲気を持つ街でイメージがまとまり、スローガンを「OPEN YOKOHAMA」に決定した。ロゴマークは、制作委託先の大手広告会社・博報堂(東京都)が10候補をつくり、林文子市長らが今回の3候補に絞った。
 3候補は、「Y」の文字をハートの形で表現したA案、風車の羽根をイメージしたB案、打ち寄せる波と起伏豊かな街並みをモチーフにしたC案。
 一方、市議会からは「キャラクターやマークがたくさんあり、分かりづらい」「約5600万円もの事業費を投じる価値があるのか」などの声が上がっている。
 これに対し、7日に記者会見した林市長は、「マークが多いのは知っているが、担当部署が市民に親しみやすく(事業などを)認知してもらうために作っているので、尊重したい」と話し、事業費についても「ワークショップなども行ってきた総費用で、見合っていると考えている」と強調した。
 市民投票は、同プロジェクトのホームページ(http://imagine-yokohama.jp/)などで受け付ける。締め切りは5月20日。

市民の税金を使ってロゴを作ることや、その経緯、企画の内容自体に関してはここでは触れません。あくまで「ロゴ批評ブログ」として、純粋にロゴの批評のみを行います。
ちなみに、現時点ではこれらのロゴを誰が作ったのか(記事によると、受注は博報堂だそうですが)、いくらかかったのかなどの情報も調べていません。前もってそういう情報を知ってしまうと、ちゃんとした批評にならないと思うのです。

左から a案 b案 c案。




ランクをつけると、

1位:b案
2位:a案
3位:c案

となります。b案とa案はあまり差がありません。
c案は数段劣っていると思います。まとまりがいまひとつ。数合わせで作った感じがします。
b案は、造形的な完成度を上げれば、よいロゴになる可能性はあります。

2010年4月3日土曜日

日本年金機構

ロゴの良し悪しを判断するときに、「ぱっと見たときの瞬間的な印象」で決めることは有効な方法の一つだと考えます。
通常、専門家でもない限り、ロゴを意識的に見ることはないからです。
みんな無意識的にロゴを見ていると思います。


ここで、「有名な企業だから」とか「かっこいい製品を出している会社だから」とか予備知識を意識した瞬間に判断が鈍ります。



先日見かけたこのロゴに違和感を感じました。







瞬間的に「なにこれ!?」と思ったのです。



よく見ると、マークの設計思想は悪くないと思いました。

でも、造形的にもうすこし良くできたのでは。



文字部分は、モリサワの「丸フォーク」書体です。